未払残業代は約200万円?正社員の相談事例でわかる計算と請求の流れ
Q相談:「毎日残業しているのに、申告は月10時間までと言われます」
相談者Aさん:部品メーカーで受発注や納期調整を担当する正社員です。勤務時間は午前9時から午後6時まで、昼休みは1時間です。人手が足りず、夕方に受けた注文の処理や翌日の出荷手配で、午後8時前後まで仕事をする日が続いています。
上司からは「残業の申告は月10時間まで」と言われています。それでも「今日中に処理してほしい」と頼まれ、上司も私が残って仕事をしていることを知っています。給与明細には毎月2万5000円の残業手当が載っていますが、実際の残業は月平均45時間ほどです。差額を請求できるでしょうか。
回答:会社の指示の下で働いた時間が申告時間を超えているなら、その未払分を請求できる可能性があります。「申告は10時間まで」という社内ルールだけで、実際に行った残業の賃金が不要になるわけではありません。まず、残業時間と給与の内容を整理しましょう。結論からいうと、今回のケースでは、24か月分の未払残業代は210万円と計算できます。基本給と職務手当の合計が月32万円、月平均45時間の時間外労働があるのに、毎月10時間分しか残業代が支払われていなかった正社員の事例です。
ただし、これは以下の条件を置いた計算例です。実際の請求額は、勤務記録、給与明細、就業規則などを確認して算定します。210万円は未払残業代の元本で、遅延損害金や弁護士費用等を含まず、税金等の控除前の金額です。回収額や手取り額を保証するものではありません。
※この記事の相談者・会社・会話はすべて架空です。実際によくある相談経験から作成した事例であり、当職の相談実績・解決実績を紹介するものではありません。
210万円になる計算根拠
① この事例の前提を確認します
基本給28万円+職務手当4万円=月32万円。24か月間、金額の変更はありません。
職務手当は通常の仕事に対する賃金で、固定残業代ではありません。ほかに計算対象となる手当はないものとします。
所定労働時間は1日8時間。会社の年間カレンダー上の所定労働日数は各年240日で、年間所定労働時間は1920時間、1か月平均では160時間です。
2024年8月~2026年7月の24か月について、休憩や私用の時間を除いた法定時間外労働が合計1080時間(月平均45時間)あったと確認できたものとします。各月60時間以下で、深夜労働・休日労働はありません。
残業手当は毎月2万5000円、24か月で60万円が支払われています。これ以外の残業代の支払いはありません。
通常の労働時間制が適用される一般社員で、管理監督者、変形労働時間制、裁量労働制等の問題はないものとします。給与は月末締め翌月25日払いで、対象分はすべて支払期日を迎えています。
② まず、通常の1時間当たりの賃金を出します
32万円 ÷ 160時間 = 2000円
月給制では、残業代の計算に入れる月額賃金を、月の所定労働時間で割ります。月ごとに所定労働時間が異なる場合は、1年間における1か月平均所定労働時間を使います。実際に残業した時間を分母に足すわけではありません。
職務手当なども原則として計算に含めます。通勤手当や家族手当などには除外できるものがありますが、名称だけで決まるわけではなく、支給条件や実質を確認します。参照:厚生労働省「割増賃金の基礎となる賃金とは?」、鹿児島労働局・月給制の割増賃金の計算方法。
③ 次に、残業1時間当たりの金額を出します
2000円 × 1.25 = 2500円
通常の労働時間制では、原則として1日8時間・週40時間を超える労働に25%以上の割増が必要です。この事例は月60時間以下の法定時間外労働だけなので、1.25倍で計算します。月60時間を超える部分や深夜労働、法定休日労働がある場合は、割増率を分ける必要があります。参照:厚生労働省・法定労働時間と割増賃金、厚生労働省・労働条件に関するルール。
④ 24か月分を計算し、支払済みの残業代を差し引きます
本来支払われるべき残業代:2500円 × 1080時間 = 270万円
支払済みの残業代:2万5000円 × 24か月 = 60万円
未払残業代:270万円 − 60万円 = 210万円
相談者Aさん:毎月の差額が積み重なると、そんな金額になるのですね。
回答:この前提では、月平均の不足額は8万7500円です。ただし、実際の請求では「平均45時間だった」という記憶だけで計算を終えず、日ごとの始業・終業・休憩を整理し、月ごとに残業時間と既払額を確認します。
相談:「タイムカードがなくても請求できますか?」
相談者Aさん:勤怠システムには10時間分しか入れていません。ほかに何を用意すればよいでしょうか。
回答:申告した勤怠記録と実態が違う場合には、ほかの記録を組み合わせて確認します。入退館の履歴やパソコンの使用記録に加え、業務メール、チャット、日報などが手掛かりになります。
ただし、会社にいた時間がすべて労働時間になるわけではありません。「何時から何時まで、誰の指示で、どの仕事をしたか」を説明できることが大切です。休憩や私用で残っていた時間は分けて整理します。参照:厚生労働省・労働時間の適正な把握方法。
相談時に用意したい資料
雇用契約書・労働条件通知書:所定労働時間、給与、残業代の取り決めを確認します。
給与明細・賞与明細・給与振込履歴:基本給や手当の内訳、支払済みの残業代、支払日を確認します。対象期間の分を、手元にある範囲でそろえてください。
就業規則・賃金規程・年間勤務カレンダー:休日、年間所定労働時間、手当の性質、給与の締め日などを確認します。
タイムカード・勤怠データ・シフト表:出退勤、休憩、休日出勤の状況を整理します。申告を修正された記録があれば、それも役立ちます。
入退館履歴・パソコンの使用記録・業務メール・チャット・日報:実際の勤務時間と仕事内容を裏付けます。残業の指示や申告を制限するやり取りは重要です。
ご自身のメモ:入社日・退職日、担当業務、上司の指示、典型的な1日の流れ、残業代について会社に言われたことをまとめます。当時の記録と、後から思い出して書いた内容は区別してください。
すべてそろっていなくても相談できます。資料の不足は相談時に伝えてください。必要に応じて、弁護士から会社へ記録の開示や保存を求める方法を検討します。ご自身で保管する際は、適法に入手できる範囲の資料について元のデータを残し、日時や前後の文脈が分かる形にしておくと役立ちます。
弁護士に相談してから請求するまでの流れ
相談者Aさん:依頼すると、どのように進むのでしょうか。相談しただけで会社に連絡されますか。
回答:相談しただけで、直ちに会社へ請求するわけではありません。在職中か退職後か、会社との関係やご希望を確認し、依頼の範囲と会社へ連絡する時期を相談して進めます。
1.相談で、働き方・未払いの理由・時効を確認
勤務状況や給与の説明を伺い、持参資料を確認します。残業時間を示す証拠があるか、固定残業代の問題があるか、請求できる期間はどこまでかを整理し、見通しと不足資料をお伝えします。
2.費用と方針を確認し、依頼するかを決める
相談料、着手金、報酬金、実費、裁判手続に進む場合の追加費用などを確認したうえで、委任契約を結びます。費用の仕組みと回収見込みを踏まえて判断できるようにします。
3.証拠を整理し、未払額を計算
給与と勤務時間を月ごとに整理し、支払済みの残業代を差し引いた計算書を作ります。記録と説明が食い違う点や、会社から反論されそうな点も確認します。必要な会社保有資料の開示・保全の要請は、この段階や次の請求と併せて行うことがあります。
4.弁護士から会社へ請求
ご本人と請求内容・時期を確認し、対象期間、金額、計算根拠、回答期限などを記載した請求書を送ります。内容証明郵便など、請求の内容と到達を記録できる方法を用いることがあります。時効が迫る場合は、すべての資料がそろう前に必要な対応を検討します。
5.会社の回答を検討し、交渉する
会社が示す勤務記録や反論を確認し、必要な説明や再計算を行います。金額、支払期限、分割払いの有無などを協議し、合意するかどうかはご本人が判断します。合意した場合は書面にまとめ、入金まで確認します。
6.交渉で解決しなければ、労働審判や訴訟を検討
証拠や争点に応じて手続を選びます。労働審判は原則3回以内の期日で審理し、話合いによる解決も図る手続です。適法な異議申立てがあると訴訟へ移行します。解決までの期間や回収できる額は、争いの内容や会社の支払能力によって異なります。参照:裁判所「労働審判手続」。
相談:「退職してから、まとめて請求してもよいですか?」
弁護士:退職後も請求はできますが、待つ間に古い月の賃金の時効が問題になることがあります。2020年4月1日以降に支払期日が来る賃金の消滅時効は、現在、当分の間3年です。退職日から一律に3年ではなく、各月の給与支払期日から個別に進みます。参照:厚生労働省・賃金請求権の消滅時効。
弁護士に相談しただけでは、時効の進行は止まりません。会社への催告による完成猶予にも期間などの条件があるため、古い未払分がある場合は、資料集めを終える前でも相談してください。
相談者Aさん:まず給与明細と、仕事のメール、手元の勤怠記録を持って相談します。
回答:はい。「残業代が一部出ているから、これ以上は請求できない」と考える必要はありません。実際に働いた時間と支払額を照らし合わせることが出発点です。資料が不足していても、今あるものを基に、請求の見通しと次に必要な準備を一緒に整理しましょう。
法令・制度の確認日:2026年9月9日。計算に関係する主な規定:労働基準法32条・37条・115条・143条、労働基準法施行規則19条・21条。個別の勤務制度や賃金の定めにより計算方法は変わります。




コメント